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WCS2017を準優勝したSamのパーティを振り返ってみた。

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はじめに

 久々のブログ更新。Switchを持たない&就活中のvgcプレイヤー、Lacquer(@is26yk)と申します。閲覧いただき誠にありがとうございます。

 コロナウイルスの影響を受け、ほぼ全ての就活の選考が延期。Web選考の方は順調に進み、空いた時間で就活の準備に注力して参りました。が、思いのほか時間が余ること余ること……。
 かと言ってvgc2020を久々にやってみたらまま退屈。就活で今年のルールから離れすぎたせいで興味を失ってしまったのかも分かりません。

 そんな中でTwitterを眺めていたところ、美琴さん(@misaka3510r)が過去ルールの公式大会の試合を振り返るツイートを拝見。

 「同じ要領でブログ書くのも面白いかも。」

 そう考えた私は、最も尊敬するSam Pandelis(@zeldavgc)がvgc2017の世界大会で準優勝した構築の分析、解説を試みることに決めました。

 Samとは殆ど関わりがないため、拙い知識と文章力で補う形になりますが、最善を尽くして投稿します。

そもそもSamの構築とは

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 上のパーティが彼がvgc2017ルールの世界大会で使用したものです。
 ガブリアスアローラキュウコンウインディバルジーナデンジュモクカプ・テテフの6匹で構成されています。持ち物を見てみると、ガブリアスにのみZクリスタルを持たせ、他のメンバーには防御面を強化するアイテムばかり配っていることが分かります。

 本構築の肝は「積み技」(詳しくは後述)にあります。つまり、メインアタッカーとなるポケモンたちに積み技を使用させ、彼らの対面性能を底上げするのが狙いです。アタッカーを仕立て、その高い火力で相手を圧倒することが主な勝筋となります。
 なお、積み技を主軸とするパーティのことを「積み構築」と表現したいと思います。

 以下に当時のSamのDay2予選トップカットの動画、そして決勝戦の動画(4本目)を添付しておきます。

vs Jang Wonseokf:id:ykhr7:20200425013035p:plainf:id:ykhr7:20200425013047p:plainf:id:ykhr7:20200425013103p:plainf:id:ykhr7:20200425013117p:plainf:id:ykhr7:20200425013127p:plainf:id:ykhr7:20200425013138p:plain
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vs Sebastian Escalantef:id:ykhr7:20200425013153p:plainf:id:ykhr7:20200425013203p:plainf:id:ykhr7:20200425013217p:plainf:id:ykhr7:20200425013226p:plainf:id:ykhr7:20200425013237p:plainf:id:ykhr7:20200425013245p:plain
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vs Paul Ruizf:id:ykhr7:20200425013307p:plainf:id:ykhr7:20200425013355p:plainf:id:ykhr7:20200425013523p:plainf:id:ykhr7:20200425013642p:plainf:id:ykhr7:20200425013654p:plainf:id:ykhr7:20200425013702p:plain
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vs Ryota Otsubof:id:ykhr7:20200425013818p:plainf:id:ykhr7:20200425013827p:plainf:id:ykhr7:20200425013941p:plainf:id:ykhr7:20200425013925p:plainf:id:ykhr7:20200425013841p:plainf:id:ykhr7:20200425013950p:plain
youtu.be


~何が魅力的なのか~

 当時の世界大会を優勝されたのは日本人のバルドルさん(@barudoru)ということで、国内外で彼に多くの注目が集まりましたが、私はSamのパーティも大変魅力的であったと捉えています。

 魅力的と評した根拠として私は、単純なビートダウンやコントロール系として練り上げた構築とは異なり、積み構築に求められる要素を細分化し、役割分担の末、個々のメンツでこれらを緻密に再現している点を挙げます。

 前項で本構築の肝は積み技にあると述べましたが、積み技を使う盤面を作る(以下、「積み展開」と表記)には、味方の援護を受けたり、敵を縛る状況を作り上げたりすることが望ましいです。というのも、積み技を使うターンのポケモンは、自身の能力上昇に徹することから、相手から見れば隙だらけの状態。つまり攻撃の的になり得ます。それゆえ積み展開には、お膳立てをする要素が基本的には欠かせません。

 次の項目では、私が積み構築に必要と考える要素を挙げたいと思います。


積み構築に必要な要素

 積み構築に必須となる要素とは具体的に、積み技、(アタッカー自身の)高い耐久値、耐久補佐、S操作、瞬間火力、妨害手段の6つ。

積み技

 本ブログでは、自身の攻撃面を強化する変化技を積み技と表現します。具体的には、剣の舞、蝶の舞などが挙げられます。
 本構築で採用されている積み技(兼メインアタッカー)は以下の通りです。

  • f:id:ykhr7:20200423184105p:plain 剣の舞 (ガブリアス)
     剣の舞は攻撃を2段階上昇させる積み技です。
     攻撃種族値(130)だけでなく、耐性、耐久面(108-95-85)の種族値配分も申し分ないガブリアスは剣の舞を積む機会に恵まれやすいです。とはいえ、当時のルールはカプ(フェアリー)を中心に成り立っていたため、眼鏡ムーンフォースやフェアリーZの存在に気を付ける必要がありました。
  • f:id:ykhr7:20200423184211p:plain 瞑想 (カプ・テテフ)
     瞑想は特攻と特防を1段階ずつ上昇させる積み技です。
     カプ・テテフは、高い特攻種族値(130)とサイコメーカーにより無振りでも大きな火力が出せるため、耐久面に厚く努力値を寄せることで瞑想を積みやすくなります。
  • f:id:ykhr7:20200423184234p:plain 蛍火 (デンジュモク)
     蛍火は特攻を3段階上昇させる積み技。
     脅威の特攻種族値173により、素の火力ですら凄まじい(フィールド補正込みのカプ・コケコに並ぶとか並ばないとか)。さらに特性ビーストブーストにより、倒す度に特攻が上昇するおまけつき。その種族値の極端な配分から、耐久面に努力値を割きやすいと言えます。

高い耐久値

 本構築のアタッカーは、その火力を種族値の高さや補正、そして積み技に依存します。さらに、積み技を使用するためには場持ちを良くしなければなりません。以上の理由から、積みアタッカーの努力値の多くが攻撃面でなく、耐久面に割かれる傾向にあります。

耐久補佐

 積み技を使用している最中に敵からのダメージを耐えるため、アローラキュウコンオーロラベールを採用しています。また、ウインディの威嚇もここに分類したいと思います。
 オーロラベールと威嚇のサポートを受けると、ピンチベリーの発動機会を調整しやすくなります。この結果、デンジュモクカプ・テテフウインディの場持ちが更に向上し、攻撃の施行回数を稼ぐことに繋がります。

  • f:id:ykhr7:20200423192100p:plain オーロラベール (アローラキュウコン)
     光の粘土により8ターンの間、ダメージを2/3倍に抑えるオーロラベールは、味方の耐久をサポートするうえで強力な手段です。リフレクターや光の壁と異なり、オーロラベール1つで物理・特殊技の双方に軽減効果を発揮するため、技枠を取らないなどのメリットも。
  • f:id:ykhr7:20200423192145p:plain 威嚇 (ウインディ)
     ウインディの威嚇は、敵2体の物理攻撃ステータスを一段階ずつ下げる効果があります。また威嚇は、場に出た瞬間に作用する性質から、盤面上の耐性を切り替えつつデバフを撒くという意味で強力と考えます。

S操作

 バルジーナの追い風とアローラキュウコンの凍える風、ウインディの地均しが該当します。
 S操作が積み構築にも必要であると考える理由は2つあります。1点目は、(上述の通り)アタッカーの努力値を素早さにあまり割けないということ。2点目は、先手を取って相手のポケモンを縛る(もしくは縛っているかのように見える)状況を作ることで、保守的な動きを取らせる、つまり積み技を使用する隙を作るのに役立つということ。
 なお、キュウコンウインディのデバフが効かないメタグロスに対してはバルジーナが強く、サポーターも補完関係にあると言えそう。

  • f:id:ykhr7:20200423193100p:plain 追い風 (バルジーナ)
     味方全体の素早さを、使用した次のターンから(※かつての仕様)3ターンの間、2倍にします。
  • f:id:ykhr7:20200423193315p:plain 凍える風 (アローラキュウコン)
     敵全体の素早さを1段階ずつ下降させる全体攻撃技です。追い風と異なり挑発が効かないほか、氷タイプの技であることからドラゴンタイプをはじめ、多くのポケモンにそこそこのダメージを期待できます。使い方としては、味方を守らせている内に選択し、敵味方の縛り関係をひっくり返すのがメジャーです。
  • f:id:ykhr7:20200423193552p:plain 地均し (ウインディ)
     味方と敵全体の計3匹の素早さを1段階ずつ下降させる範囲技です。味方にもデバフがかかることから、守ると合わせて使うといった工夫が必要です。また地面タイプの技であるため、飛行タイプや浮遊のポケモンには効かない点も留意。

瞬間火力

 本構築ではガブリアスの地面Zが最も高い瞬間火力を叩き出します。S操作の項目で解説したことと重複しますが、積まなくとも問答無用で縛る一撃をちらつかせることで、先方に保守的な択を選ばせて積み技の試行回数を稼ぎます。Zクリスタルの使用が許されたルールだからこそ、自然と組み込めた要素だったのかもしれません。
 ウインディの手助けも積み技無しの状態から火力を底上げするため、この項目の中で紹介したいと思います。

妨害手段

 バルジーナの挑発、アローラキュウコンの金縛りと吠えるが該当します。

  • f:id:ykhr7:20200423213141p:plain 挑発 (バルジーナ)
     挑発は、トリックルームや追い風といったS操作、エルフーンのZ自然の力、積み技など、変化技全般を阻止します。
  • f:id:ykhr7:20200423213254p:plain 金縛り、吠える (アローラキュウコン)
     金縛りは、4ターンの間、敵が直前に繰り出した技1つを使用できなくする効果から、拘りアイテム持ちが多かった当時のルールで特に有用であったと言えます。
     一方で吠えるは、トリックルーム起動を妨害する、積んだ相手を無理矢理リセットするといった妨害工作から、味方に向かって撃つことで後攻交代のサポートをするといった使い途まで期待できます。
 

基本選出の考察

 先の動画を見ると、「サポーター2匹+アタッカー2匹」の構成で選出されることが多い印象。
 先発のサポーターはアローラキュウコンが、先発のアタッカーはガブリアスが務める傾向にあり、既述の積み構築特有の要素を先発で全て埋める形となります。
 先発にガブリアスが投げられやすい理由として、キュウコンや他のアタッカーが苦手とする、バークアウトウインディに積み技なしで有利を取れることが挙げられます。ウインディは当時のルールで使用率トップの存在であり、物理と特殊攻撃の双方にデバフを撒ける駒として重宝されていました。そのウインディ入りのパーティに対し、ガブリアス以外を先発で投げると、バフが相殺されて積み展開に支障をきたします。それゆえ、ガブリアスを先発アタッカーに投げることが多かったのではないかと考えます。
 後発のサポーターはウインディが、後発のアタッカーはデンジュモクが担います。ウインディはアタッカー兼サポーターとして、構築全体の潤滑油のような役割を果たします。一方、デンジュモクは、ガブリアスの圧力を含め、諸々のサポートの下で蛍火を積み、最後の関門として対戦相手の前に立ちはだかります。


個別解説

 ここからは本構築のポケモンを一匹ずつ簡単に解説していきます。なお調整先を調べるのは面倒なので、今回は省略させてもらいます。

ガブリアス

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  • 持ち物:地面Z
  • 特性:鮫肌
  • 性格:意地っ張り
  • 技:
    1. 地震
    2. 岩雪崩
    3. 剣の舞
    4. 守る

 本構築の先発を務めることが多いメインアタッカー。積み要員その1。
 持ち物の地面Zにより、積み技を使用しない状態から高い威力を叩き出せるほか、地震を味方を巻き込まない単体技として使用することができます。
 当時の環境的にドラゴン技の通りが悪いため、サブウェポンには岩雪崩を採用。これにより、地面技の効かないテッカグヤなどの飛行タイプや、ウインディ地震以外の打点を持てます。

アローラキュウコン

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  • 持ち物:光の粘土
  • 特性:雪降らし
  • 性格:臆病
  • 技:
    1. 凍える風
    2. オーロラベール
    3. 金縛り
    4. 吠える

 サポーターの中でもアローラキュウコンは、耐久補佐からS操作、妨害工作まで万能にこなします。それゆえ、最も汎用性のある起点作り要員であり、必然的に先発に据えられやすいです。しかし、メタグロスや他天候要素が絡むパーティ相手には、バルジーナウインディが代わりに先発で投げられるようです(同速のカミツルギ相手に選出していたのか気になるところ)。

バルジーナ

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  • 持ち物:サイコシード
  • 特性:防塵
  • 性格:穏やか
  • 技:
    1. イカサマ
    2. 追い風
    3. 挑発
    4. 羽休め

 サイコシードを持っているため、テテフと合わせて選出すれば、特殊技で畳み掛けてくる相手(カプ・コケコやウツロイドなど)に対して強気に動けます。オーロラベールを張れなければ耐久面で不安定なアローラキュウコンと異なり、素でも安心してS操作に着手できるところが持ち味。
 悪戯心持ちの補助技を受け付けない悪タイプ、かつ地面技を透かせる飛行タイプの複合であり、決勝戦では、バルドルさんの2Z選出のどちらにも対応できる駒として後発に置かれていました。

ウインディ

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  • 持ち物:マゴの実
  • 特性:威嚇
  • 性格:意地っ張り
  • 技:
    1. フレアドライブ
    2. 地均し
    3. 手助け
    4. 守る

 2匹目のサポーターとして、裏に控えることが多いウインディキュウコンが苦手な鋼技や、ガブリアスバルジーナが苦手とするフェアリー技を後発から受けることができます。威嚇とピンチベリー、フレアドライブ自傷によりHPの調整がし易く、場持ちが良い点も特徴的。
 また既述ではありますが、攻撃種族値が110、フレアドライブの威力が120と高いことから、アタッカーの役割もこなします。
 選出に組み込まれやすい理由には、鋼タイプが不在の本構築において、通りの良いフェアリー技を唯一半減で受けられるといった背景事情もあります。

デンジュモク

20200426120307
  • 持ち物:イアの実
  • 特性:ビーストブースト
  • 性格:臆病
  • 技:
    1. 10万ボルト
    2. マジカルシャイン
    3. 蛍火
    4. 守る

 積み要員その2。決勝戦でも鬼門と評価されたデンジュモクです。高い特攻種族値(173)により積まずとも最低限の火力は出せますし、ビーストブーストにより周囲を倒す度に特攻ステータスが上昇します。
 デンジュモクの積み技、蛍火の効果は脅威の特攻ステータス+3。これだけ積み技の上昇幅と種族値が甚だしいと、努力値を攻撃面に殆ど振る必要がなさそうです。実際Samは多くの努力値をHPと素早さに配分しています。
 選出の項目で述べた通り、基本的には、ガブリアスの火力や味方のサポートに守られる形で蛍火を選択し、終盤の詰めを担います。
 サブウェポンにはマジカルシャインを採用しており、これがメインウェポンの通らない地面タイプ、特にガブリアスに刺さります。マジカルシャインは全体技かつ無効化される恐れがないことから、10万ボルトよりも安心して選択し易いというメリットがあります。

カプ・テテフ

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 本構築の「カプ枠」。積み要員その3。特性サイコメーカーにより、他のカプからフィールドを奪い返すだけでなく、先制技から味方を守って着実に行動を通すことができます。もちろん選出しなくとも、先制技の使用を相手に躊躇させる意味でも有用です。またサイコフィールドのもう1つの強みは、エスパー技であるサイコショックの威力を1.5倍する(当時の)仕様にあります。
 一見、積み要員のカプ枠を採用するのであれば、レヒレやコケコでも事足りるように思えます。しかし、①当時の環境に本構築が苦手とする(チョッキ持ちを含めた)カプ・コケコが少なくなかったこと、②先方の構築によっては積み展開のためにバルジーナの特防を上昇させる必要があったことから、サイコショックを覚えたテテフが最も「カプ枠」に適していたのではないか、と私は考えます。フィールド込み瞑想サイコショックで①の課題は早急に対処できますし、サイコシードを起動させることで②を解決します。


おわりに

 他者の構築をブログでひたすら語るのは今回が初めてでしたが、良い経験になりました。私が構築を作るときに足りない視点、つまり個々の役割への意識を学ぶ好機であると感じたからです。
 締まらない結びになってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

参考文献
WCS2017アナハイム世界大会レポート Day3編 - バルドルのなみのり日記
2017 Pokémon World Championships Video Game Masters Division | Pokemon.com